【目次】
- 「ご苦労様」の意味は?「目上の人に失礼」と言われる理由
- 敬語?「ご苦労様です」ならOK?
- 「お疲れ様」も目上の人にNGなのはなぜ?
- 慰労の気持ちを伝える「言い換え」表現
- 「お疲れ様」「ご苦労様」の「違い」と使うときの「注意点」
【「ご苦労様」の意味は?「目上の人に失礼」と言われる理由】
現在では、マナーの本だけでなく、多くの辞書においても、「『ご苦労様』は目上の人から目下の人に使う言葉」と記載されています。でも実は、「ご苦労様」が「上司に対しては使うべきではない表現」とされるようになったのは1980年代、一般化したのは1990年代以降です。
今回は「ご苦労様」の基本的な知識を学び、そのうえでこの言葉をどう使っていくのが「大人の語彙力」として正解なのか、考察していきましょう。
■「意味」
「ご苦労様」は、「ご」「苦労」「様」の3つのパーツから成り立ったフレーズです。「苦労」に敬意を表す接頭語の「ご」を付け、さらに「様」を付けることで、他者の苦労をいたわったり、感謝の気持ちと共に丁寧にねぎらう際に使われます。ビジネスシーンでは、例えば「長期出張、ご苦労様です」や「早朝からご苦労様でございます」のように用いられます。
■「目上の人に失礼」と言われる理由
苦労の「労」という字は、訓読みで「ねぎら-う」、「いたわ-る」と読みます。微妙な意味の違いはありますが、いずれも「目下の者や同輩の苦労や骨折りに対して、感謝する」という意味の言葉です。そして、どうやらここが「『ご苦労様』は、目上の人に対しては使うべきではない」「『ご苦労様』は、自分と同等か下位の人に向けて使いましょう」と言われる根拠となっているようです。
■実際には、「ご苦労様」は昔から目上にも使われていた
現在では一般的に「『ご苦労様』を目上の人に対して使うのは失礼にあたる、使えるのは同等か目下に対してのみ」と言われていますが、実はこの主張はマナー本などを中心に広がったものであり、明確な根拠はありません。歴史的には、「ご苦労様」は目上に対しても使われており、江戸期にはむしろ、目上に対する労いの言葉として使われることのようが多かったことは、歌舞伎や浄瑠璃本などで実証されている事実です。そして、昭和に入っても、「ご苦労様」は敬意の高い言葉として、目上の人に使われていたのです。用法が変化したのは、1980年代から90年代、昭和後期から平成初期のころです。
【敬語?「ご苦労様です」ならOK?】
「ご苦労様」も「ご苦労様です」も、正しい敬語表現です。1990年代までは、「ご苦労様でございました」と、さらに丁寧にした表現で、目上の方に対しても一般的に使われていました。
■一般的に「ご苦労様」は目上に対して使わないのが無難
「ご苦労様です」や「ご苦労様でございます」は、目上の方にも使える、正しい敬語表現です。しかしながら、文化庁が発表した平成17年度「国語に関する世論調査」では、(1)自分より職階が上の人に「お疲れ様(でした)」を使う人は、69.2パーセント。「ご苦労様(でした)」を使う人は、わずか15.1パーセント。また、(2)自分より職階が下の人に「お疲れ様(でした)」を使う人は、53.4パーセント。「ご苦労様(でした)」を使う人が36.1パーセントという結果が出ています。
つまり、「ご苦労様」という言葉本来の意味に関わらず、すでに「『ご苦労様』を目上に対して使うのは失礼だ」という感覚が、社会の共通認識として定着しているのが現状です。ビジネスシーンだけでなく、一般社会において、敬語の使用でリスクを取る必要はありませんよね。ですから、事実は事実として頭に留め、「『ご苦労さま』という言葉は目上の人には使わない」のが、大人として賢い選択と言えるでしょう。
【「お疲れ様」も目上の人にNGなのはなぜ?】
「お疲れ様」という言葉は、もともと芸能分野で上下の隔てなく使われていた言葉です。それが一般化したのは第二次世界大戦後。そして、使用頻度が高まったのは、1990年代以降です。「『ご苦労様」は目上に失礼」という主張が広まった結果、「ご苦労様」のかわりに「お疲れ様」が使われるようになったのです。2000年代になると「『ご苦労様』は目下に、『お疲れ様』は目上に」と記載する国語辞典も登場し、この説が定着して現在に至ります。
「ご苦労様」が目上にはNGなのに対し、「お疲れ様」は「お疲れ様です」「お疲れ様でした」あるいは「お疲れさまでございました」と、敬語表現にすれば目上の人に対しても使用できます。 ただし、一部では、「社内など身内の人に限ったもので、取引先やお客様などには敬語表現にしても適していない」と説くマナー本もあるようなので、注意が必要です。
【慰労の気持ちを伝える「言い換え」表現】
「ご苦労様」はもちろん、「お疲れ様」さえも、相手やシーンによってはマナー違反というのは、少々決めつけ過ぎにも思えますが…実際、不快に感じる人がいる以上、配慮は不可欠。このふたつの言葉を使わずに、感謝やいたわりの気持ちを表す「言い換え表現」を覚えておきましょう。
■1:「いつもありがとうございます」
■2:「本当に助かりました」
■3:「お力添えに感謝いたします」
あれこれ言葉を飾るよりも、率直に感謝の気持ちを表しましょう。誤解されることもなく、しっかりと気持ちが伝わりますよ。
■4:「(早朝からご足労いただき)恐れ入ります」
■5:「お疲れのところ恐縮ですが~」
■6:「ご苦労をおかけしました」
ねぎらいや感謝の声掛けは、コミュニケーションを円滑にしてくれるもの。積極的に口にしたり、メールの出だし文として使用したいですね。
■7:「お先に失礼します」
■8:「また明日もよろしくお願いします」
退社の際、周囲へかける挨拶として、「お疲れさまです」よりも丁寧な印象に。もちろん、社外の方に対しても使えます。
【「お疲れ様」「ご苦労様」の「違い」と使うときの「注意点」】
■「違い」
・「ご苦労様」が使えるのは自分と同等か下位の人
・「お疲れ様」は「お疲れ様です」「お疲れ様でした」などの敬語表現で、目上の人にも使用可能
■「注意点」
「お疲れ様です」という言葉に対しても、一部には不快感を感じる人がいる。身内以外へは、率直な感謝の言葉や言い変え表現で気持ちを表現する術を覚えておきましょう。
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日本語のマナーを語る上で、「ご苦労様」程、誤解の多い挨拶のフレーズはないと言われています。敬語に対する意識は年齢や職業、所属する集団によって違うもの。正しい知識をもつことは大切ですが、自分と違う習慣をもつ人に出会ったら、その人の習慣も尊重すべきですよね。そして、自分が「ご苦労様です」と言われたときには「失礼じゃないか」「目下に見ているのか」と目くじらを立てたりすることなく、常に広い心で接したいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本語はこわくない』(PHP) /「御苦労」系労い言葉の変遷(https://www.urayasu.meikai.ac.jp/japanese/meikainihongo/16/013kuramochi.pdf) :